放課後○○倶楽部
 別に見たいわけではないが、あまり止めてばかりいては俺に同性愛疑惑が浮上してしまうからな。

 この女顔のせいで昔から何度も言われた事で、今更説明するのも否定するのも面倒なのだ。俺は面倒な事が大嫌いだから、何もしないのが一番楽な解決法なのだ。

 目の前で深夜放送する年齢制限が掛かりそうな映画のワンシーンが繰り広げられようとしており、いつの間にか俺の横に陣取っていた変態が鼻から血を流して被り付いていた。

「あの三馬鹿妹キャラ……いや、メイドもどきを相手しなくても――」
「もう帰ったよ。『私達、今度はお姉様になる』って走っていったよ」

 振り返った先には開け放たれた部室の扉と寂しく吹き込んでくる風の音が虚しく響き、投げやりに説明する変態部長の声がどこか遠くで聞こえていた。

「……なんですか、それ」
「いや、目の前でこんな素晴らしい光景を見せられて感銘を受けたらいい。『時代は妹よりセクシーお姉様よ』って叫んで行っちゃったよ」
「…………馬鹿、ですね」
「そうだね。でも、素直でいい子達だよ? きっと素晴らしいお姉様になって帰ってくるよ」

 馬鹿過ぎて何を言っていいのか分からないが、一言だけ言わせて欲しい。


 ……すごい。


 この一言で全てが片付いてしまうのだから、あの三人の存在感は半端なかったのだろうな。ほとんど話してないけど、頭の中に残っているのは……メイド服だけ。

 顔の印象は特徴無くて薄かったけど、その他には何か印象が――
「……そう言えば、名前も聞いてなかった」
 残ってなかった。

 とりあえず、このモヤっとした心を晴らすにはこれしかない。

 目の前で艶声を上げる和音さんと律子ちゃんの怪しげなショーを凝視している変態部長の後頭部に肘鉄を入れ、床の上をもんどりうっている部長を見て少しだけ気が晴れた。

 結局、和音さんは俺を呼んで何をする気だったのだろうか?

 とても気になるところだが、今はその話も出来ないだろう。窓の外は赤く染まって夕刻の黄昏を醸し出し、部室の中はピンク色に染まって妖艶な雰囲気を醸し出し、その対比を見ながら俺は小さく息を吐いて帰り支度を始めていた。
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