俺様外科医に求婚されました



帰り道の車内は、とても静かだった。

伯父さんも伯母さんも、特に何かを話してくることもなく、私も黙ったまま窓の外の移り変わる景色を流し見ていた。


これから先、どうなっていくんだろう。
お母さんは、どうなってしまうんだろう。

そんなことばかりが、何度も頭によぎった。


どうして母なんだろう。
どうしてこんなにも早く、変わっていってしまうんだろう。

憎んでもしょうがないのはわかってる。
でも、認知症という病気そのものが…憎くて怖くて、ただただ悲しかった。


認知症を根治できる薬は、この世には存在しない。
母の病気がわかった頃、認知症に関する本を片っ端から読み漁ったり、インターネットを使って調べまわった結果、その現実を知った。

過去30年以上に渡って世界中の製薬会社が根治薬の開発を試みてきたらしいけど。
これまで成功した事例は、ひとつもないらしい。


だけど過去には、希望のある薬も開発されたことがあったという。

脳内に蓄積するアミロイドβを溶かすワクチンが開発され、臨床試験にたどり着き、効果を調査する段階にまで至った。

けれどその結果は、死者まで発生する副作用が出たようで、開発は中止となってしまったらしい。

微かな希望は、そこで途絶えてしまったのだ。


治療薬のない病気は、認知症だけではなくこの世の中には他にもたくさんある。

こんなにも世界は発展していて。
医療だって日々進歩しているのに。

変わらないまま、時だけが過ぎ。治らないまま、生涯を終えてしまう人がたくさんいる。


願いや希望を持って、未来に向かいたくても…なかなかその光は、見つからないのだ。


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