俺様外科医に求婚されました
「えっ!?会いたい!?」
嬉しそうな諒太の声で、ふと我に返った。
「わかった、今すぐ行く」
そしてその言葉に、慌てて口を開く。
「あははっ、冗談です。もう二時をまわってるんですよ」
会いたい気持ちはウソじゃない。
会えるなら、今すぐにでも会いたい。
だけど諒太は明日、午後十一時から七時間ほどの手術が入っていたはずで、長時間の手術を控えていることを思い出した私は、会いたい思いを抑えて冗談っぽく交わしてしまった。
「うわっ、冗談とかひどいぞ。二時だろうが何時だろうが理香子に会いたいなんて言われたら、いつでも飛んでいくつもりだし、今だってベッドから飛び起きてたのに」
「すみません、ちゃんと寝てください。明日は長い手術が入ってますよね?」
「あぁ、さすが理香子!俺のスケジュールはバッチリだな。本当愛されてるわー、俺」
陽気ないつもの諒太の声に、自然と笑みがこぼれた。
この人がいるから、私は笑うことができる。
この人がいるから、不安でたまらない気持ちも少しだけ軽くなる。
だから私は、ある決意をして諒太に言った。
「あの、明日はまた仕事を休ませてもらうことになるんですけど。夜、もし会えるなら少しでも時間はありますか?」
母のことや病気のこと。
今日、仕事を早退した理由や、今まで隠していたことも全部。
ずっと抱えていた思いを、諒太にちゃんと話そうと決めた。
「話しておきたいことがあるんです」
「えっ?何?改まって。結構深刻な話?」
「うーん、深刻というか…まぁ、大事な話です」
私がそう答えると、諒太は数秒黙ったけれど。
「夜は大丈夫、ガラ空き。八時には病院を出られると思う」
休む理由を聞いてくることもなく、優しくそう返してくれた。
それから私達は、明日の待ち合わせ時間を午後九時に決め、場所は恵比寿ガーデンプレイスの入口ということになった。
「じゃあ、また明日。おやすみ、理香子」
「はい、おやすみなさい」
そして諒太との電話を終えた私は、敷きっぱなしになっていた母の布団の上に、力が抜けたようにボスッと体を沈めた。
長かった一日。
気を抜いた途端、どっと疲れが押し寄せてくる。
でも、明日には母とも話せるし、諒太にも会えるんだ。
そっと目を閉じると、二人の顔が交互に浮かんできて。
気が付いたら、私は眠りについていたーーー。