たとえ嫌だと言われても、俺はお前を離さない。
「そうだったな。ごめんごめん」

「ごめんねー」

「ちょっと、二人共、納得しないでください!」

多分、私の顔は真っ赤に染まっている。
そんな私を見て、部長は意地悪く笑うのみだ。

肩も、抱き寄せられたまま。


「もう、部長も笑わないでくださいっ」


そうは言ってみるけれど、”離してください”とは言えない自分がいた――。



その後、すっかり話し込んでしまい、お店を出たのは閉店時間である二十三時とほぼ同時だった。

店先では、先生は何を思ったか「おじゃま虫は退散しまーす」と言って足早に駅の方へと去っていった。駅はすぐそこだし、駅に着けば逆方面の先生とはすぐに別れることになるのに……。


「俺達も帰るぞ」

ぎゅっと手を握られ、ドキンと胸が高鳴るのを感じながら歩き出す。


さっき怒鳴ったことについて、どうせ部長からもからかわれるんだろうな……と覚悟をして歩いていた。


「なあ、さっきのことについてだけど」


はい、来ました。こうなったらとことんいじってください。


「はい。何ですか」

「……ありがとな」

「……え?」

思わず、目が点になる。


「何だよ」

「だ、だって。私、何も分かっていないくせにあんな風に声を荒げてしまって、嫌われてもおかしくないことをしたと思っているのにお礼だなんて……」

私がそう答えると、部長は「嫌う? 冗談だろ」と言って私を見つめる。その表情はとても柔らかく、愛しげだ……。
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