たとえ嫌だと言われても、俺はお前を離さない。
「大人しくて、はっきりものを言えないことが悩みのお前が、俺のためにあそこまで怒ってくれたのは嬉しかったよ」

「怒られるのが嬉しいんですか?」

「お前……それは御幣があるだろ。でもまあ、お前に怒られるのは悪くないかもしれないがな」

そう言って、フッと笑う部長を見て、私の心臓がさっきよりも強く高鳴る。顔も熱い。


「わ……私は部長にはなるべく怒られたくないですっ」

恥ずかしさを誤魔化すように、プイッと顔を背けながらそう返すと、「まあ、それはそうだよな。怒ったりいじめたりするのはなるべく控えよう」と彼は言う。


「……めるのは」

「え? 何?」


どうしてこんなことを思ったのかは自分でもよく分からないのだけれど……




「……いじめるのは、時々ならいいですよ」




さっき部長が私を庇ってくれた時、『綾菜をいじめていいのは俺だけだからな』と彼は言った。

何を言っているの! と思う半面、部長にならそれもいいかも……なんて思ってしまった自分もいて……。



すると。



「おい、綾菜。行く先はこっちだ」

「え?」

部長が私の手を引くように、駅とは違う道沿いに入っていく。当然、「部長? 道が違います」と言うけれど。


「ホテルに行くのはこっちの道だ」

「ホっ!?」

「そんな可愛いことを言われたら、家まで待てない」

「いや、でも、待っ――」

私の制止など聞かず、彼は私を引っ張っていく。
そして――気を失いかけるくらいに、たっぷりと深い愛を私に与えてくれた。
< 62 / 74 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop