たとえ嫌だと言われても、俺はお前を離さない。
その日の夜、重い気分でアパートに帰る。
薄暗い部屋の電気も点けずに、ベッドにうつ伏せに倒れ込む。
今頃、部長は花村さんと何を話しているんだろう……?
先生に相談してみようかな。彼なら何か知っているかもしれない。
……いや、結婚式の準備で忙しいはずだ。こんなことに巻き込んじゃいけないよね。
でも、酷いよ。言いたいことがあるならはっきり言う、って私達の間で何度も言ってきた。
私に不満があるのなら、花村さんを誘う前にちゃんと言ってほしい。
それに……
部長は知らないかもしれないけれど、明日の土曜日は私の誕生日なんだよ?
自分の誕生日を自分から教えることは恥ずかしくて出来なかった。だけど明日は休日だから、きっとデート出来ると思っていた。部長と一緒に過ごせるのなら、誕生日なんて祝ってもらえなくてもいいと思っていた。
だけど、部長が私以外の女の人と二人きりで過ごしているのなんて、想像したくもない。
花村さんは美人だ。私と違ってはっきりした性格だし、部長との年の差も私より少ない。
それでも認めたくない。私は部長のことが誰よりも好きだから――。
しばらくしても、部長からの連絡は一切ない。
いつまでも薄暗い部屋でしょげていても仕方がないので、私はとりあえず起き上がって部屋の電気を点け、食事とお風呂を済ませた。
でも、その後は何をする気も起きず、日付が変わる前には電気を消し、ベッドに潜り込んだ。
けれど、一向に眠くならない。目を瞑ると、部長の怖い顔や花村さんの存在を思い出し、胸がズキンと痛む。
……怒ってもいい。怒鳴ってもいいから、部長の声が聞きたい。部長、部長……。
ついに涙を堪え切れなくなり、冷たい水が私の頬を伝ったその時だった。
ピンポーン、と部屋のチャイムが鳴った。
こんな時間に? と驚いてベッドから上半身を起こす。
来訪者の予想が全く出来ずにぽかんとしていると、再びチャイムが鳴る。
何か……怖い。不審者? でも、知り合いの可能性もあるし……。
とりあえず適当に上着を羽織り、簡単に髪を整えてから、玄関の前で「はぁい」と返事をする。戸を開ける前に来訪者の正体が知りたかった。でも、戸の向こうから返事はない。
何か嫌だな……と思いながらも、戸に覗き穴がついていないため、相手の存在を知るには戸を開けるしかない。
ゆっくりと、おそるおそる戸を開けると――
「え?」
突然、真っ赤なバラの花束が眼前に広がった。