自由帳【番外編やおまけたち】

(そう言えば、佐々岡さんとは全くそういう話をしたことがなかったな……)


過去のやり取りを思い出すと心が沈む。
いつも、どうでもいいような些細なことで言い合ったりして、肝心なことは何ひとつ聞けていなかったからだ。

例えば、毎日どういう仕事をしているのか。興味のあるもの。休日の過ごし方。

ーーかと言って、二人きりになればなったで、変に緊張してしまいうまく言葉が紡げないのだが。


(一度だけ、突然雨が降ってきた日に偶然会って送ってもらったことがあるけれど……)


車という狭い空間で二人きりになってしまったことに耐えられず、ほとんど口を開けなかった苦い思い出だ。


「北村さんは、ウチとはどういう繋がりなんですか?」


寺内さんの声を聞いて我に返った。慌てて意識を目の前の会話へと戻す。


「あ、ええっと、プリンターを入れて貰っています」

「なるほどね、そっち系か。なら……あ、ちょうどいいところに。ーー佐々岡あ!」

「えっ?」


突然耳慣れた苗字が飛び出たので、驚いて寺内さんが手を振っている方向を見る。
焼きそばの入ったお皿を運んでいたシャツ姿の男性が、ちらりとこちらを見た。

一瞬、視線がぶつかった。
目を見開いて驚いたような表情が、懐かしい顔に浮かんでいる。どことなく、精悍になった顔つき。


見間違いではない。いつもの作業着姿ではないけれど、絶対に佐々岡さんだ!
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