自由帳【番外編やおまけたち】

顔を上げれば、何となく気遣わしげな瞳が向けられている。少し薄くて、形の良い唇も何だか間近で、一気に顔に熱が集まる。
想像以上の近距離に、ひとりパニックになった。


ーーあんなに、会いたいって思っていたのに。


「ダイジョブです! あああの、今日はありがとうございました! またよろしくお願いします!」


逃げるようにエレベーターに飛び乗った。先に数人乗り込んでいたため、彼らとは反対側の壁へくっつくように立ち、勢いよく閉めるボタンを押す。

すると、扉が閉まる直前に佐々岡さんがエレベーターに滑り込んできた。


「挟む気? ーー北村、ドS過ぎ」


喉の奥をクッと鳴らすように笑われた。
いや、それよりも。


「な、なんで佐々岡さんが乗ってるんですか!」

「だから、うるさい。酔っ払い」

「自分だってーーむぐ」


今度は肉を頬張ったからではない。
大きな手で私の口を塞ぎながら、すみません、と周りの乗客に会釈する佐々岡さんを不思議な気持ちで見つめてしまった。

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