自由帳【番外編やおまけたち】
・・・・・

「すすすすみません! 決して寝ようと思ったワケではなくて……あ、そこ、右です」


佐々岡さんは無言でハンドルを切る。ちら、と一瞬向けられた視線は氷点下。
あれ、今は夏だったような気がするんだけどおかしいな……。

思わずぶるりと震えると、佐々岡さんがそっとエアコンの温度ボタンを触っていた。


ーーそうじゃないんです、決して寒いというワケでもなくて……!


もう一度言い訳をしようとして、でも出来なくて口を噤む。口を開けたり閉じたりしていると、横からはっきりとため息が聞こえた。


「この辺り?」

「あっ、ハイ! あの、あそこ……背の高い木は見えますか? その真ん前のアパートです」

「了解」


気まずい沈黙が続いていたので、案内を求められて助かった。
だが、見慣れた景色が視界に入ったことで、もうすぐお別れだと思うとそわそわしてしまう。


ーーまずは謝らないと!


こんな険悪な空気のまま別れたくないという、ワガママな私の正直な気持ちだ。次はいつ会えるのかなんて、全く分からない。もしかしたらこれが最後になるかもしれない。


「ここだよな?」


あっという間に車は停止し、ヘッドライトが消える。カーステレオのバックライトが、ぼんやりフロントガラスに浮かび上がった。
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