手をつないでも、戻れない……
「私達、別れましょう……」
妻の目は、決して投げやりな物でなく、進むべき前を見ているように思えた。
「おまえ、いつから?」
「由梨が、家を出るって言った時、あなたと二人になるかと思うとね…… でも、もしかしたら、結婚した時から分かっていたのかもしれない?」
妻は、コーヒーカップを包む手へ目線を落とした。
「でも、俺は、あの時お前が居てくれて良かったと思っている。少なくとも俺を救ってくれたのはお前だ……
そして、この十五年間も、お前と由梨がいたから、俺らしく責任をもった仕事が出来たんだと思う」
不思議と今となって、正直な気持ちが言葉となって出てくる。
「私も同じよ。あなたに助けてもらった。そして、大切な娘との時間を幸せに過ごしてこれた。
あなただったから、看護師としての仕事が出来たと思う…… でも、もう、終わりにしていいわよね……」
妻は、少しほっとしたような笑みを見せた。
「俺は、お前がそんな風に思っていたんなんて気付かなかった」
妻自身も、様々な気持ちを巡らせていたのだろう。
「多分、私達は家族にはなれたけど、決して恋人にはなれないのよ」
妻の言おうとする事は、俺達夫婦にしか分からない感情かもしれない……
「恋人か?」
俺は、こんな時でさえも、美緒の顔を思い浮かべてしまった。