手をつないでも、戻れない……
「私達、十五年前、それぞれ想いを寄せている人が居たでしょ。本当なら、それぞれの相手と上手くいけば、楽だったのに、って思うかもしれない。
だけど、私ね…… 私達が一緒になった事には、深い意味があると思っているの。私達には、由梨という大切な娘が出来て、あなたも仕事での地位を得た。私は、看護師としてかなりのスキルを身につけた。

 きっと、彼女も、福祉の立場ではいくつもの資格と、かなり名を上げたと思う。あなたと、あの時、結婚してしまっていたら、今の彼女のすばらしい人格は無かった。
 だから、別れた事に意味があったのよ。
 そして、今、再会した事も…… 
 そして私達が別れる事にも……」



「彩香…… お前凄いな……」

 俺は、心の底から言った。


「あなたの妻ですから…… でもね、嫉妬しなかったと言ったら嘘になるわ。
 悔しかったけど、それは、あなたへの愛というより、誰かに自分の物を取られたっていうプライドだけだと思ったの…… そんなの情ないじゃない」


 自分の妻でありながら、なんて冷静な判断を出来る人間なんだろうと、今更ながら感心してしまう。


「そんな姿一度も見せなかったじゃないか?」


「そうね…… あなたが彼女を思う姿を見て、あなたに、愛されたいという気持ちより、私もが誰かに恋をしたいとう気持ちになったのよ…… この、十五年間が私を強い人間に変えたのかもしれない……」


 何故だかわからないが、妻が女としての幸せを俺に求めない事に、嫉妬や怒りは無く、もっと、先を見通した深い関係を歩まなければいけない気がした。

 他人から見れば、俺の都合のいい考えだと思うかもしれない。

 でも、ここで、嫉妬や怒りをぶつけない妻の真意は、この十五年間を汚したくない強い思いからだろう。

 俺も心の底から同感だった。

 これも、一つの愛し方だと思った。


 だからと言って、俺の罪悪感が軽くなる訳で無く、娘に対して、これからもっと深い責任を負う決意もした。



「上手く言えないが…… お前だったから、今まで一緒にいられたのかもしれない……」


 俺の言葉に、妻は、ふっと息をついた。
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