手をつないでも、戻れない……
「実はね…… 私、由梨が落ち着いたら、海外支援チームに入ろうと思っているの……」


「えっ? なんだ、それ?」


「看護師として、海外に派遣されるの」


「危険とかあるんじゃないのか?」


「まあ、多少はね…… 前に、研修で行った大学病院のドクターが、支援チームに入って、一緒に来ないかって言ってくれているの?」


「ドクターって、男?」


 なんとなく、条件反射で聞いてしまった。



「ふふっ。別に不倫していたとかじゃないわよ!」

 妻は俺を睨んだ。


「すまん……」

 何故か謝ってしまうのは、やはり後ろめたい部分があるからだろう……


「でも、凄く尊敬しているわ。正直、チームに誘われた時は嬉しかった」


「……」

 俺には、何も言えない……


「あなたはどうするの?」


「俺か、俺は、もう一度、彼女の前に立つよ」


「ふふっ。あなた、ここって時に甘いから、大丈夫かしら?」


「分かっているよ」

 俺は、深いため息をついた。



「ひとつお願いがあるんだけど……」


「ああ…… なんだ?」


「家を、このままにしておいて欲しいの…… 由梨の帰る場所を残しておきたいの……」


「ああ、勿論。俺達の関係は変わっても、由梨は俺達の娘だ」


「私は、海外に行ったらしばらくは、由梨に会えないと思う。でも、由梨はこれから大変な事が沢山あると思う。いつでも相談できる相手で、あなたには居て欲しいの」


「勿論そのつもりだ。由梨にもきちんと話さないといけないな」

 俺は、少し深いため息を吐いた。
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