手をつないでも、戻れない……
「ごめん…… 遅くなって。もう、心配はいらいない」


 彼が、私の体を引き寄せた。


「樹さん……」 


 驚きすぎて、声が出たのかどうかも分からない……


 そして、彼と雅哉の目が鋭く重なった。


「美緒は、おまえには渡さない」

 彼は、冷静に張り裂けるような響く声で言った。



「ふざけんなよ! あんたのせいで、美緒さんがどれだけ苦しんでると思うんだ…… あんたが、ちゃんとしていりゃあ、こんな事にはなんねぇだよ!」


 捲し立てた同時に、雅哉の拳が、彼の頬にバシっと走った。



 彼は、よろけて後ろに下がり、唇を手の甲で軽く押さえた。


「樹さん!」

 私は、慌てて走り寄った。


「いいから、離れてろ!」


 彼は、雅哉を見て、私の体を自分の後ろに追いやった。



「なんで、こんなタイミングで現れるんだよ」


 雅哉の顔は悔しそうに歪んでいた。


「美緒を渡すわけには行かないからだ! 妻とも別れる事にした」



「綺麗ごと言ってんじゃねぇ。美緒にこんな格好までさせやがって!」


 雅哉は、彼の胸ぐらを掴んだ。



「やめてよ!」


 私が叫んでも、二人の男の激しい睨み合いはおさまる気配が無かった。



「ああ…… 俺がこんなんだから、十五年も前から、美緒を苦しめてきたんだ」


「だったら、なおさらだろ!」


「でも、俺だから、美緒は必至になってくれるんだって、自惚れてる」



「はあ! 舐めた事言ってんじゃねぇ」


 雅哉の拳は、また彼の頬を殴った。



 しかし、よろけた彼は、すぐさま、雅哉の頬を殴り返していた。

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