【番外編追加中】紳士な副社長は意地悪でキス魔
唐澤さんに連れてこられたのは郊外にある小高い丘、その頂上にあるレストランだった。

昭和初期に建てられた洋館風の建物は厳かな雰囲気だ。床や柱は飴色に磨かれ、若草色のテーブルクロスが掛けられた円卓が適度なスペースを開けて配置されていた。窓からは街並みと遠くに海も見えた。運が良ければ眼下には雲海が広がって、神秘的な景色に包まれるらしい。天空のレストランとか。

スタッフから手渡された革張りのメニューを開くと、ランチにしては高めの値段が刻字されていた。


「仕事なので経費で落とせますんで、ちょっと贅沢しましょうかっ! あ、すいませーんっ、このランチコースを。あと、少し作業をしたいので食事は10分後にスタートで」


唐澤さんはモバイルパソコンを鞄から取り出すと電源を入れる。私が差し出したメモリを差し込み、データを移していた。


「ありがとうございましたっ! お返ししますねっ!」
「あ、うん。データだけのやりとりならメールでもよかったんじゃない?」
「いえいえいえいえっ! この唐澤、やりとりするときは直接でないと気がすまないんですっ! ご迷惑でしたかっ?」
「そんなことない。かえって助かったから」
「と、申しますと?」
「ひとりでいると雅さんを思い出してしまって」
「さようでございますか……」


申しわけなさそうに眉を寄せる唐澤さん。でも、はたと気づいて私を怪訝そうな目つきで見つめた。
< 132 / 237 >

この作品をシェア

pagetop