【番外編追加中】紳士な副社長は意地悪でキス魔
住みたくないなんて言ったら嘘になる。でも偽の婚約者なんだし、仮にここで決めたとしても住めるはずがない。それも酷だな、と思っていると。


「婚約が終わったらキミにあげる。だからキミが気に入ったところにして」
「え?」
「キミが住むんだ。ハニー」


思わず顔を上げて彼を見る。雅さんは優しく笑っていて。


あ……。

“婚約が終わったら”。その言葉に胸がチクリとした。今、私がここにいるのは雅さんの偽の婚約者を演じているからで、その使命が終われば私は雅さんと会うことはなくなる。噂だって広まってるし、ヘタしたら会社を辞めなくてはいけないかもしれないし。

そう想像して胸が痛くなる。
いつか会えなくなることに切なさを覚える。

この感覚……忘れたわけじゃない。知らないわけじゃない。

ぶんぶん、と頭を振る。違う、きっと違う。
認めたくない。認めちゃいけないって本能で感じる。このひとを好きになってしまったら、辛くなるのは私自身だ。


「どうしたの。高所恐怖症か? でもここは平気だろう?」
「違うの。ただ……」
「ただ?」


さっきまで笑っていた雅さんが心配そうに私の顔をのぞき込む。でもその直後、彼は何かに気づいたように、ニヤリと笑った。
< 75 / 237 >

この作品をシェア

pagetop