××夫婦、溺愛のなれそめ
最初のお弁当を届けて以来の秘書室の扉の前で、神藤さんが待っていた。
「おはようございます、レヴィ様。あと、奥様」
私はおまけかい。恭しく頭を下げる神藤さんを、レヴィがたしなめる。
「神藤、『奥様』じゃいくらなんでも莉子が働きにくいだろう」
「では、『莉子さん』でよろしいですか」
「そうだね」
浅丘さん、でもレヴィの身内だってことが露骨に現れちゃうものね。
「では莉子さん、行きましょう。私たちはレヴィ様とずっと一緒にいられるわけではありません。部屋は隣あっていますが、それぞれ別の仕事があります」
「は、はい」
神藤さんのメガネがきらりと光る。この人、意地悪姑っぽいところがあるから気を付けなくちゃ。
「じゃあ、頼んだよ。莉子、また後で」
レヴィは心配そうに私を見ながら、隣の部屋に入っていった。
そりゃあそうだ。CEOにはCEOの仕事、秘書には秘書の仕事がある。
ああでも、心細いなあ。
緊張で高鳴る胸を押さえつつ、神藤さんの後に続いて秘書室の中に入った。
「あっ、おはようございます!」
すぐに挨拶してくれたのはやっぱり真由さん。部屋の中には、まだ会ったことのない人が三人いた。