繋いだ歌【完結】
「来栖、慧くんだね?」
「……そうですけど」
目の前に立っていたのは、びしっとした紺のスーツに身を包んだ男性だった。
メガネの奥の眼光は鋭い。
「初めまして、私は新條真史と申します。こういう者です」
そうして、差し出された名刺の彼の名前の下には大手のレコード会社名が書いてあった。
僕は名刺を受け取るとじっと見つめる。
どうして、僕の元に?
「先日、文化祭に訪れた際に貴方の歌声を聞かせてもらいました」
「あ」
そうだ。音楽関係の人が来るって田所が言っていた。
それがこの人なのか。だけど、なんで僕?
他にも歌っている人はいた筈だ。
「久しぶりに心を打たれました。あれは来栖さんが作曲したものと聞きましたが、そうなのでしょうか?」
「……はい、そうですけど」
「やっぱりそうなのですね。ああ、よかった。……単刀直入に言うと、私は貴方をスカウトしに来ました」
「え?」
スカウト?
思ってもない言葉に僕は目を何度もパチパチとさせる。