繋いだ歌【完結】


「歌声、メロディー、申し分ないと思いました。確かにまだ少し荒削りな部分もあるけど、それはいくらでもどうにでもなります」

「え、えっと、ちょ、ちょっと待ってください」

「はい?」


勝手に進んで行く話を僕がストップさせると、新條さんは少し目を見開いた。


「それって、僕に歌手になれってことですか?」


黙った新條さんに僕は尋ねる。
新條さんは当たり前のように「そうですが」と言って不思議そうな顔をした。
言わなくてもわかるだろと言う風に。


「僕は歌手にはなりません。無理です。申し訳ないんですが、お断りします」


そう言って名刺を彼に突っ返すと、僕は踵を返して歩き出した。


歌手になりたくて曲を作っていたわけじゃない。
僕は歌いたいわけじゃない。


彼はそこを勘違いしている。


それで諦めてくれると思っていた僕が甘かった。
彼は毎日のように僕の元へ訪れた。

本当に毎日のように。
裏口から逃げたりしてみたけど、なんで僕がこそこそしなきゃいけないんだと思ってやめた。

やっぱり今日も彼はいた。
僕を見つけると、近付いて来る。
< 20 / 41 >

この作品をシェア

pagetop