繋いだ歌【完結】
「歌声、メロディー、申し分ないと思いました。確かにまだ少し荒削りな部分もあるけど、それはいくらでもどうにでもなります」
「え、えっと、ちょ、ちょっと待ってください」
「はい?」
勝手に進んで行く話を僕がストップさせると、新條さんは少し目を見開いた。
「それって、僕に歌手になれってことですか?」
黙った新條さんに僕は尋ねる。
新條さんは当たり前のように「そうですが」と言って不思議そうな顔をした。
言わなくてもわかるだろと言う風に。
「僕は歌手にはなりません。無理です。申し訳ないんですが、お断りします」
そう言って名刺を彼に突っ返すと、僕は踵を返して歩き出した。
歌手になりたくて曲を作っていたわけじゃない。
僕は歌いたいわけじゃない。
彼はそこを勘違いしている。
それで諦めてくれると思っていた僕が甘かった。
彼は毎日のように僕の元へ訪れた。
本当に毎日のように。
裏口から逃げたりしてみたけど、なんで僕がこそこそしなきゃいけないんだと思ってやめた。
やっぱり今日も彼はいた。
僕を見つけると、近付いて来る。