繋いだ歌【完結】
「歌手ではなく、今日はボカロPとしてアルバムを出しませんかと打診しに来ました」
「アルバム?」
「はい。私としては貴方を埋もれさせたくないのですが、どうしても歌うのが嫌だと仰いますので。
それではボカロに歌わせたアルバム制作ならいかがかと思いまして」
「……ボカロに歌わせたアルバム」
「それの売れ行き次第ですが、アーティストへの楽曲提供なども視野に入れてます」
「僕が楽曲提供……?」
「はい。その準備に手間取って貴方の元へ来るのが遅くなりました」
「……何でそこまで」
「はい?」
僕の声が震えた。彼は淡々とそう告げるが、僕には不思議でならなかった。
別に人気なボカロPなんてたくさんいる。決して僕だけじゃない。
もちろん、そういう人達がアルバムを出したりしているのは知っている。
だけど、僕にそんな話が来るなんて思っていなかった。
「何でそこまでしてくれるんですか」
そう言うと、新條さんは一度目を見開き、それからふっと笑った。
新條さんが笑ったのを見たのは、それが初めてだった。
いつも無表情で何を考えているのかわからなかったから。
「私、最初に云いましたよね。貴方の歌に心を打たれたと。
貴方は天才です。断言します。他の人にはない才能を持っています。
曲を作るスピードも、そのクオリティだって、プロと引けを取りません。
……そして、」
新條さんはそこで区切ると、視線を伏せ続けた。