ほんもの。
仕事の電話かもしれない。そっと寝室から出て、リビングに置いていた鞄からファンデーションを取り出す。
「昨日はちゃんと帰れましたか?」
その声が聞こえて、無意識にその扉の向こうへと顔が動く。
もしかして、昨日の女性?
「はい、こっちは大丈夫です」
それは、私には知られてない、の大丈夫?
廊下へと繋がる扉を開ける。安藤の背中が見えた。
ふと考える。
結婚は何のためにするんだろうか。
同級生にデキ婚をした子がいる。子供を作るため? 少子化を防ぐため? 相手に首輪をつけるため? 指輪をつけて自分は幸せですと主張するため?