ほんもの。
そのどれに、私たちの"ほんもの"はあるのだろう。
安藤が振り向いて、私を見た。
「じゃあ、また」
心の中に渦巻くこの感情に、わかり易い名前をつけるとしたら。
「用意、」
「電話のひと、誰?」
ポケットに携帯を入れて、安藤が少し動きを止めた。
「誰って、取引先」
あ、嘘吐いた。と考えたらもう駄目だった。
すとんとお腹に落ちたものがせぐり上げてくる。
「結婚、やめる」
「え、は?」
きょとんとした顔も格好良いのは認める。もう見慣れたしまった表情だけれど、そこは変わらない。