ほんもの。
呆れた顔をして安藤はつり革を掴む。その横顔を盗み見た。
窓から差し込む朝日が眩しくて、少し目を細める。
幸せの色をしていた。
「彼氏できた?」
伊勢先輩が開口一番にそう言った。
「え」
「彼氏できたの知ってるもーん」
「先輩、月白に八つ当たりしないで下さい」
矢敷さんが言う。
八つ当たりとは。
「朝、広報の安藤と月白が一緒に出社して来たって噂が広まってる」
「……え?」
「付き合ってんの?」
先輩からの言及に、正直に答える。きっといつかは分かる事実だ。
私は今すぐ早退したい気分だった。