白馬に乗った上司様!?
緊張してぎこちなくなる動きを必死に隠して、私の真正面に座って注文する課長を見る。

自分が女子社員からキャアキャア言われてる事を自覚してるくせに、私と2人きりで差し向かいで座ってるなんて無防備過ぎじゃないだろうか?私も女性なんだし、こんな風に食事に来たら勘違いしてしまうとは考えないんだろうか?

そして、思い当たる。

「女性じゃないんだ……」

「ん?なんか言った?」

「いえ、何も…」

三十路手前の地味なお局様を恋愛対象として見る訳ないのに、2人きりで店に入っただけで浮かれてしまった。
小さな呟きが聞かれなかったのを幸いに、心の中で気持ちを立て直す。

仕事だ、この食事も仕事の一環なんだ。

「課長。今日の一斉メールの件、説明して頂けますか?」

声も表情もいつも通りでありますようにと意識して私は話し出したけれど、当の課長は機嫌良さげに笑うだけ。女将さんが注文したビールや料理を運んでくれるまで、仕事に関する話さえ一切してはくれなかった。
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