銀髪の王太子は訳あり令嬢に愛を乞う ー 今宵、お前を必ず奪い返す
正直にそう答えれば、彼の「わかった」というひどく静かな声が耳に届く。

それは納得しているというよりは、怒りを抑えているような響きでどこか不気味だった。

何を思ったか突然彼は私を抱き上げる。

「こ、今度はどこへ?」

ジェイの顔色を窺いながら尋ねたその時、コンコンとノックの音がしてさっきドアを開けてくれた侍従が顔を見せた。

「お湯の用意が出来ました」

「わかった。お前達はもう下がっていい」

侍従に向かって軽く頷くと、ジェイは私を隣の部屋に運ぶ。

そこには白い猫足バスタブがあって、紫の薬草らしきものが湯の中に入れられていた。

「少ししみるが辛抱しろ。これが傷に効くんだ」

そう説明してジェイは私の身体から毛布を取り、ゆっくりとバスタブに下ろす。

熱い湯で冷えた身体があったまるも、彼が言ったように腕の傷にしみて思わず顔を歪めた。

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