銀髪の王太子は訳あり令嬢に愛を乞う ー 今宵、お前を必ず奪い返す
「踊って頂けませんか、セシル?」

それは、優雅で美しい王太子の顔。

もう彼しか見えなかった。

ジェイはボーッとしている私の手を掴み、楽団の演奏が始まると、華麗な動きで踊り出す。

その左手の薬指には、私が着ているドレスと同じ深紅の指輪がはめられていたが、彼から目が離せなくて深く考えられなかった。

彼のリードが上手く、腕も痛くない。

ここでヴァイオリンを弾いた時のように自然と身体が動いた。

「そのドレス、似合ってる」

彼に言葉に思わず赤面し、俯く。

「……ありがとう」

照れてそれしか言えない。

俯いていても彼の視線を感じる。

「初めて会った時、俺が『いつか……ダンスのお相手を願いたいな』って言ったの覚えているか?」

ジェイの問いかけに、思わず顔を上げた。

忘れるわけがない。

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