銀髪の王太子は訳あり令嬢に愛を乞う ー 今宵、お前を必ず奪い返す
彼のこととなると、私の思考は上手く働かない。

何も見えなくなる。

「それを言ったら逃げそうな雰囲気だったから」

悪戯っぽく目を光らせ、彼は言い訳する。

確かに、王太子だと告げられたら、すぐに逃亡しただろう。

あの時はレノックス公爵令嬢と知られたら本当に投獄されるんじゃないかとビクビクしていた。

おまけに男爵令嬢のフリをしていたし……。

それにしても、彼が陛下の側近ではなくて王太子だったなんて……。

益々一緒にはいられないわ。

彼は将来この国の国王になる人だ。

そんな人に怪我の治療なんかさせて、私は何をやっているのだろう。

もうこれ以上……甘えられない。

これ以上一緒にいたら……離れられなくなる。

明日、クレアを連れて宮殿を出よう。

涙を堪えながら努めて明るく言う。

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