銀髪の王太子は訳あり令嬢に愛を乞う ー 今宵、お前を必ず奪い返す
「確かに。……もう行くよ」

名残惜しげに告げ、ジェイは周囲を警戒しながらテラスに出る。

「気をつけて」

そう声をかけると、彼は私の頭にポンと手を置いた。

「またどこかで」

優しい微笑を浮かべジェイは軽い身のこなしでヒョイと手すりを越え、屋根伝いに下に降りていく。

テラスに身を乗り出しながら、彼を見送った。

ジェイは道端で私を振り返る。

目が合うと、彼に向かって小さく手を振った。

「またいつか」

呟くような声で言ったけど、彼は私の唇の動きを読んだのかコクリと頷き、朝靄の中に消えていく。

「……行っちゃった」

寂しげに言えば、いつの間にか私の側に来ていたウィングがクーンと鳴いた。

「お前も彼が気に入ったのね」

しゃがんでウィングの頭を撫でる。

ジェイが何者かは知らない。

泥棒ではないとは思うけど、彼は私の心を盗んでいった。
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