銀髪の王太子は訳あり令嬢に愛を乞う ー 今宵、お前を必ず奪い返す
「あのう……その殿方と……一晩一緒にいて何もありませんでした?」

クレアが遠慮がちに質問してくる。

「な、な、何もあるわけないじゃない」

つっかえながらも何とか否定するが、クレアは疑いの眼差しを向けてきた。

「本当ですか?」

「本当よ。そもそも国王の側近の彼が私なんか相手にするわけないわ」

ムキになって言い張れば、クレアは呆れ顔で私を見た。

「セシル様……ご自分がどれほど綺麗な容姿をしているか自覚してください。王太子様ではなくても、ここで誰かに見初められれば一生楽をして暮らせますよ」

「……そんな生活に何の意味があるのかしら?」

今の私は身を持って知っている。

毎日食べる物にも困って暮らしている人がいることを……。

なのに、自分は綺麗なドレスを着て、美味しい食事をして、呑気に暮らすなんて……出来ないわ。

「セシル様……」

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