嘘つきな君
「本当ゴメンね。うん、仁美もお疲れ様」
聞いてほしい話が沢山あったはずなのに、今は常務の事で頭が一杯。
会社に着くなり、帰っていいぞ。と素っ気なく言われ、そのまま常務室に籠ってしまった彼。
その姿に何も言えず、僅かな明かりしか灯らない通路に、ただ一人ポツンと立ち尽くした。
こんな時、何て言葉をかければいいんだろう。
何か言ってあげたいのに、何も浮かばない。
そんな自分に酷く嫌気がさして、ぐっと両手を握った。
今日のパーティーでは常務が私を庇ってくれて、あんな言葉もかけてくれたのに。
私は常務に何も言ってあげれない。
何もしてあげられない。
「役立たず」
自分自身にそう呟いてから、すっかり寂しくなった社内を1人歩く。
カツカツと寂しい音を立てながら自分のデスクに向かい、今日の会議の議事録を簡単に書類にまとめようと、腰かけた。