嘘つきな君
まだ残っている人がいたのかな。
そんな事を思いながら、足をそっちに向けて談話室を覗き込むと、月明かりに照らされた1人の男性が浮かび上がった。
「神谷常務……」
思わず零れた声に、ピクリと彼の肩が一度上がる。
そして、ゆっくりと顔を上げてから、視線をこっちに移した。
「芹沢」
「どうしたんですか? こんな所で」
小さく名前を呼ばれて、心臓がきゅっと締め付けられる。
でも、そんな事を悟られまいと、いつもの様に振る舞って声を落とした。
すると、まるで何でもないといった様に、片方の口端を上げて笑ってみせた常務。
それでも、やっぱり瞳は笑っていなくって、無理に作った笑顔だと分かるのは容易い。
その笑顔の中に、何故か悲しさが滲み出ている。
そして、私に向けられていた視線も、すぐに天上へと向けられた。