嘘つきな君


まだ残っている人がいたのかな。

そんな事を思いながら、足をそっちに向けて談話室を覗き込むと、月明かりに照らされた1人の男性が浮かび上がった。


「神谷常務……」


思わず零れた声に、ピクリと彼の肩が一度上がる。

そして、ゆっくりと顔を上げてから、視線をこっちに移した。


「芹沢」

「どうしたんですか? こんな所で」


小さく名前を呼ばれて、心臓がきゅっと締め付けられる。

でも、そんな事を悟られまいと、いつもの様に振る舞って声を落とした。


すると、まるで何でもないといった様に、片方の口端を上げて笑ってみせた常務。

それでも、やっぱり瞳は笑っていなくって、無理に作った笑顔だと分かるのは容易い。


その笑顔の中に、何故か悲しさが滲み出ている。

そして、私に向けられていた視線も、すぐに天上へと向けられた。
< 111 / 379 >

この作品をシェア

pagetop