嘘つきな君
「兄貴がこの会社を継ぐはずだった。だけど、あっけなくこの世を去って――空いた席に俺は有無を言わさず落とされた」
「――」
「今まで築きあげたもの、有無を言わさず全て奪われて」
微かに空いていた窓から風が吹き込む。
パラパラと本のページを捲って、静かだった部屋に音を生みだす。
そして、その言葉を聞いて以前聞いた言葉を思い出す。
彼は、突然流星の如く現れた人だって。
何の前触れもなく、ある日突然常務という重役のポストに就いた人だって。
でも、これで分かった。
彼は元々そのポストに入るはずだった彼のお兄さんの『変わり』だったんだ。
「――だから……急に常務の就任が決まったんですか」
「社長もいい年だ。トロトロと経営の事を学ばせて一人前になるのを待つより、手っ取り早く現場にぶち込んで、一刻も早く跡取を成熟させたかったんだろ」
「――」
「今まで神谷とは無縁の場所で生きてきた使えない俺を、一刻も早くそれらしくする為に」
自嘲気に笑った声が、寂しく床に落ちる。
その言葉で全てを知る。
その表情で全てを知る。
彼は、望んでこの世界に入ったんじゃない事を。
そして、この本の向こうの世界に今も帰りたいと思っているという事を――…。
「園部会長の話は、的を得ている」
「――」
「図星だった。全部見透かされてた。俺は、心のどこかで兄を恨んでいたのかもしれない」
自嘲気に笑って、目元に手を添えた常務。
その姿はまるで泣いている様に見えて、胸が締め付けられる。
「――」
「今まで築きあげたもの、有無を言わさず全て奪われて」
微かに空いていた窓から風が吹き込む。
パラパラと本のページを捲って、静かだった部屋に音を生みだす。
そして、その言葉を聞いて以前聞いた言葉を思い出す。
彼は、突然流星の如く現れた人だって。
何の前触れもなく、ある日突然常務という重役のポストに就いた人だって。
でも、これで分かった。
彼は元々そのポストに入るはずだった彼のお兄さんの『変わり』だったんだ。
「――だから……急に常務の就任が決まったんですか」
「社長もいい年だ。トロトロと経営の事を学ばせて一人前になるのを待つより、手っ取り早く現場にぶち込んで、一刻も早く跡取を成熟させたかったんだろ」
「――」
「今まで神谷とは無縁の場所で生きてきた使えない俺を、一刻も早くそれらしくする為に」
自嘲気に笑った声が、寂しく床に落ちる。
その言葉で全てを知る。
その表情で全てを知る。
彼は、望んでこの世界に入ったんじゃない事を。
そして、この本の向こうの世界に今も帰りたいと思っているという事を――…。
「園部会長の話は、的を得ている」
「――」
「図星だった。全部見透かされてた。俺は、心のどこかで兄を恨んでいたのかもしれない」
自嘲気に笑って、目元に手を添えた常務。
その姿はまるで泣いている様に見えて、胸が締め付けられる。