嘘つきな君
「本当は心の中で思っていたんだと思う。自分も気づかない奥の方で。――憎んでいたのかもしれない……神谷グループを」
「――」
「何一つ不自由なく育ててもらったのに、周りから見たら、ただの贅沢な我儘だって思われて、当たり前の事なのにな」
「――」
「だけど……やっと掴んだ夢だった。ずっと夢みた世界だった。それを奪われて、世界が空っぽになった」
ゆっくりと視線を本に向けて、そっと手に取った常務。
それでも、本を見つめて苦しそうに瞳を細めて、乱暴にソファーの上に投げ捨てた。
「どうして俺がって。理不尽だって。ガキみたいに駄々こねてた。いつまでも未練がましく過去に縋って、亡くなった兄貴を恨んで今まできた。馬鹿だよな」
「そんな事……」
「偉そうな事言って、一番仕事に心が向いていなかったのは、俺だった。それを、全部見透かされてた」
その言葉を聞いて、秘書になったあの日、常務が言っていた事を思いだす。
真剣な顔で、そう言った言葉を。
『仕事ができても、心のない奴とは仕事はしたくない』