嘘つきな君
自嘲気な彼の笑い声が静かな部屋に響く。

どこか悲し気な表情が、胸を締め付ける。

こんな神谷常務、始めて見た。


その姿に、何も言えなかった。

何て声をかけていいか、分からなかった。

何か声を掛けたいのに、言葉が浮かばない。

取り繕うような、その場限りの安っぽい言葉なんてかけたくない。

それでも、いろんな言葉が浮かんでは消えて、声には鳴らなかった。

そんな歯痒さの中、思わず唇を噛みしめた。

その時――。


「悪い。忘れて」


小さく吐いた息の下で、彼がふっと表情を和らげる。

まるで我に返った様に、背もたれに体を押し付けて、天を仰いだ。


「何、こんな事お前に話してるんだろうな、俺。悪い、困るよな」

「そんな事……」

「兄貴が亡くなった事だけ話せばよかったのにな。余計な事まで話した」

「――」

「今の話忘れて――それに、安心しろ。仕事はちゃんとする」


無理に作った笑顔だと、すぐに分かった。

私には強がらなくていいのに。

そう思うのに、何も言えない。
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