嘘つきな君
頭を下げたまま、視線を隣に向ける。
すると、そこには私と同じ様に頭を下げる常務がいた。
「機材が壊れているようでしたら、修理は我が社で負担させていただきます。芹沢にも、よく言って聞かせます」
真っ直ぐな声が、ピンと張った撮影所の中に響く。
監督も常務に頭を下げられて、少し気まずそうに目を泳がせた。
「申し訳ございませんでした。撮影を続けていただけますか」
「――気を付けてくれよ……撮影再開だっ!!」
「ありがとうございます」
監督の声を皮切りに、再びザワザワと動き出した人々。
その姿に、何度も勢いよく頭を下げる。
隣の彼も綺麗に背筋を伸ばして、腰を折っていた。
その姿に、慌てて声をかける。
「常務――」
「あの、芹沢さん……いいですか?」
口を開いた瞬間、さっきまで入口で私を呼んでいた人が現れた。
そして、申し訳なさそうに私の顔を覗き込んだ。
「怪我してませんか?」
「あ、はい、大丈夫です……。ありがとうございます」
「いえ。あ、それよりお話が」
「はい、何でしょう?」
「予算の事で確認した事があるので、いいですか?」
「分かりました」
そう答えながらも、チラリと常務を見上げる。
すると、答えるように黒目がち瞳が私に向けられた。
「お説教は後からだ」
それでも、そう言い残して、撮影が再開された方に目を向けてしまった常務。
その姿に、どんよりした気持ちになりながらも、気合を入れなおして仕事に向かった。