嘘つきな君
「あれはっ、あの時は、床が雨で滑って――」
「例えそうだとしても、いい年してあんな派手に転ぶか? 普通」
「普通じゃなくて、申し訳ございませんっ!!」
そうだ。
初めて会った時も、濡れた床に足を取られて派手に転んだんだ。
常務からあの日の事を話されて、何故か心が躍る。
あの日の私達は、常務と秘書じゃなくて。
間違いなく、ただの男と女だったから。
あの時の事を話す度に、あの時の様にただの男女に戻っている気がして嬉しくなる。
彼との距離を近くに感じる。
「しっかりしてるんだか、ドンクサイのか分からないな、お前は」
言い返す言葉がなくて、悔しくて目の前の人を睨みつける。
それでも余裕そうに私を見下ろす瞳に勝てるわけもなく、逃げる様に視線を伏せた。
すると。
「本当、世話が焼ける」
「え?――きゃっ」
その言葉と同時に突然体がフワリと浮く。
訳が分からず、思わず目の前の人の首にしがみ付いた。
何故か抱き上げられている私。
あろうことか、お姫様抱っこされていた。