嘘つきな君
途端に、訳の分からない感情に飲み込まれて泣きそうになる。

そんな顔を見られまいと、俯きながら髪で顔を隠した。


私を抱き上げたまま、彼は何も言わずに建物の中に入っていく。

そんな中、微かに揺れる足首が今更ながら痛み出す。

ズクズクと、熱を持って。


それが、まるで私の心と同じだと思った。

忘れかけていた想いが、突然息を吹き返す。

熱を持って、この胸を焦がす。


「おまえは、本当に無理ばっかりしやがって」

「すいません……」

「本当、ドジ」

「――」

「見苦しいにも程があるだろ。スカートだったら慰謝料もんだぞ」

「ちょっと、それ、どういう意味ですかっ」

「少しは俺を頼れ」

「――っ」


言いかえそうとした私に降り注ぐ言葉。

その言葉に、思わず口を噤んだ。


意地悪で傲慢な態度だけど。

その言葉は、暖かい。

不器用ながらも、私の事を心配してくれている。


広い胸から感じる熱が、私の体にゆっくりと移る。

私を支える腕が、私に触れる彼の全てが、私の心を溶かしていく。

閉じ込めた想いを、いとも簡単に溶かしていく。


胸が締め付けられて、苦しい。

少し目線を上げれば、彼の顔がすぐそこにあった。

その顔を見るだけで、何故か涙が出そうになる。
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