嘘つきな君
窒息してしまいそうな沈黙が私達の間に流れる。
さっきまで聞こえていたクラシックの音楽も、今では耳に届かない。
ドクドクと心臓の音が煩くなる中、ようやく口を開く。
「……どうして、そう思うんです?」
「別に。ただ、そう感じただけ」
無理に笑って先輩に問いかけた私に、先輩が視線を外してグラスに口をつける。
それでも、ふっと突然口元に笑みを作って横目で私に視線を投げた。
「相変らず、作り笑いが下手だよな。芹沢は」
「――え?」
「まぁ、そういう素直な所が芹沢のいい所なんだろうけどな」
「――」
「捌け口くらいにはなれるけど?」
「捌け口……ですか」
「なんでも一人で溜め込むのは、昔からお前の悪いクセ」
そう言って、私を見つめる先輩の瞳は温かくて。
全てを包み込んでくれる優しさに溢れていた。
その優しさに、胸の奥に閉じ込めていた想いが顔を出す。
仁美にも言えなかった事なのに。
それでも、もしかしたら、彼をよく知る先輩なら、この迷路に迷い込んだ様な気持ちから抜け出す方法を教えてくれるかもしれないという一筋の望みが生まれる。
抜け出したい。
自分では、どうしていいか分からないから。
彼の事を思い出して、また胸が締め付けられる。
それでも、ゆらゆらと揺れる頭で、じっと先輩の瞳を見つめていると無意識に口が開いた。
「――…あの飲み会から、しばらくして」
微かに俯きながら、か細い声で話し出す。
思い浮かぶのは、淡い照明に照らし出された彼の姿。
黒目がちな瞳で私を見つめる、その姿。