嘘つきな君
理解に苦しむ私を置いて、どこか悲しそうな顔で微笑んだ先輩。
そして、ゆっくりと話の続きをした。
「大輔の父親は、先代の社長のご子息だった」
「え?」
「現社長の兄」
「――」
「世襲制で作り上げてきた会社だ。当たり前の様に長男だった大輔の父親が後を継ぐはずだった。だけど――違った」
「違ったって?」
「大輔の父親は25歳の時に、あいつの母親と駆け落ちしたんだ」
「駆け落ちっ!?」
思わず大きな声を出してしまった私は、慌てて口に手を当てて辺りを見渡す。
案の定、周りの人達は訝し気にこちらに視線を向けていた。
その光景を見て、やってしまったと小さくなる。
それでも、そんな事にも構っていられない程、頭の中はパニックだった。
いやいや、待って待って。
いや、誰だって驚くでしょ。
駆け落ちって、そんなドラマみたいな事が、この現代でおきるんだ。
そんな私の考えを読み取ったのか、先輩は悲しそうに笑って飲み終わったグラスを小さく弾いて口を開いた。
「俺達とは生きている世界が違うんだ。大企業ともなれば、結婚は会社を大きくする手段の一つにすぎない」
「――」
「だから政略結婚寸前で、大輔の父親は逃げたんだ。恋人同士であった、アイツの母親と」