嘘つきな君
「だけど残酷だよな。運命って」


じっと写真を見つめていたら、突然隣から小さな声が聞こえて我に返る。

視線を隣に向けると、瞳を伏せた先輩がお酒の入ったグラスをじっと見つめていた。


どれだけ時間が経っていたんだろう。

すっかりグラスの下には水溜りができていて、大きかった氷も溶けて無くなっていた。

先輩の目の前にあるそのグラスを見つめながら、次の言葉を待った。


「――…アイツの兄貴は、何の前触れも無く病気で突然亡くなって、夢半ばで大輔は後継者の枠に落とされた」

「――」

「反発する間もなく、それを理解する前に、得たもの全部捨てられて、ようやく見つけた自分の居場所も奪われて、この場所に連れてこられた」

「そんな……」

「兄貴にばかり力を注いでいた現社長も、神谷一族として未だに認めていなかった親族の奴らも、あいつの兄貴が亡くなった途端、手の平を返した様に後継者へとアイツを祀り上げた」


その言葉を聞いて、ぎゅっと胸が詰まった。

あの暗闇の談話室の中で見た、常務の辛そうに歪む横顔が浮かぶ。

どこか寂しそうに月を見つめる、その視線が思い出される。

夢だったと言って見つめていた、あの本達。

懐かしむように話していた、昔の事。

その全ての裏には、こんなにも悲しい出来事があったんだ。


「久しぶりにあった時、別人かと思ったよ」


小さな溜息を吐いて、そう言った先輩。

ゆっくりと視線を向けると、先輩は悲しそうに笑っていた。

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