嘘つきな君
その表情を見て、ハッとする。

以前聞かされた言葉を、思い出す。


『――誰もが羨む神谷ホールディングス社長というポストは、俺にとっては息苦しい牢屋でしかない』


そうか。

彼にとっては、この場所も、この夜景も、神谷に係る全てのものが、煩わしさでしかない。

彼にとっては、足枷でしかない。

彼の父親変わりである社長は、彼がようやく見つけた居場所を奪った人。


恨んでいるのかもしれない。

育ててくれた恩を返したいと言っていたけど、本当は。


そんな事を思って、何も言えなくなる。

口を噤んだ私を見て、彼はゆっくりと顔を上げて目を細めた。


「――恨んでは、いない」


口を閉ざした私を見つめながら、小さくそう呟いた彼。

私の考えている事など、全て彼には分かっている。


それでも、すぐに伏せられた瞳は言葉とは裏腹だと感じた。

その言葉は、本当の彼の気持ちではないと思った。

だって、そんなにも辛そう。


「叔父さんの気持ちも理解してる。一族みんなでここまで大きくした会社だ。誰か他の奴じゃなくって、血の繋がった者に継がせたいって思う気持ちは――」


分かっている。

そう付け足した言葉が、どこか頼りない。


それでも、微かに見せたそんな表情も、次の瞬間にはいつもの彼に戻っていた。

どこか自信に溢れている、彼に。
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