嘘つきな君

「何かあったら、俺に言え。いいな?」

「ふふ。職権乱用?」

「それぐらい活用させてもらわないと、割に合わないだろ」

「分かりました。何かあったら真っ先に相談します」

「命令だぞ」


嬉しくなって大きく頷いた私を見て、満足そうな顔になった彼。

それでも、すぐにその表情は真剣なものになる。

すると、ゆっくりと大きな手が伸びてきて、そっと唇に添えられた。

その感触にピクッと体が跳ねるけど、真っ直ぐな瞳に施錠されて声を無くす。


ゆっくりと親指が私の唇をなぞる様に、右から左へ移動する。

まるで、紅を引く様に。


何も言わずに見つめ合う私達。

それでも、惹かれ合う様に体を近づけて、そっとお互いの唇を重ねた。


口の中に広がるコーヒーの香りと。

微かに香るジャスミンの香り。

それらを抱きしめるように、そっと彼の背中に腕を回した。

それに応えるように、キスが深くなる。


既に電気が落とされた展望室には誰一人いない。

宝石のように散りばめられた世界に浮かぶのは、私と彼だけ。


どんどん堕ちていく。

底の見えない場所に堕ちていく。


でも、堕ちる事を止められない。

心が彼を求めて、止まないから。


< 210 / 379 >

この作品をシェア

pagetop