嘘つきな君
「何かあったら、俺に言え。いいな?」
「ふふ。職権乱用?」
「それぐらい活用させてもらわないと、割に合わないだろ」
「分かりました。何かあったら真っ先に相談します」
「命令だぞ」
嬉しくなって大きく頷いた私を見て、満足そうな顔になった彼。
それでも、すぐにその表情は真剣なものになる。
すると、ゆっくりと大きな手が伸びてきて、そっと唇に添えられた。
その感触にピクッと体が跳ねるけど、真っ直ぐな瞳に施錠されて声を無くす。
ゆっくりと親指が私の唇をなぞる様に、右から左へ移動する。
まるで、紅を引く様に。
何も言わずに見つめ合う私達。
それでも、惹かれ合う様に体を近づけて、そっとお互いの唇を重ねた。
口の中に広がるコーヒーの香りと。
微かに香るジャスミンの香り。
それらを抱きしめるように、そっと彼の背中に腕を回した。
それに応えるように、キスが深くなる。
既に電気が落とされた展望室には誰一人いない。
宝石のように散りばめられた世界に浮かぶのは、私と彼だけ。
どんどん堕ちていく。
底の見えない場所に堕ちていく。
でも、堕ちる事を止められない。
心が彼を求めて、止まないから。