嘘つきな君

「そんな事言われたら、キスだけで終わらねーんだけど」

「ちょっ、別にそんなつもりはっ」

「もう一回して欲しいんだろ?」

「――っ」

「言えよ。もう一回したいって」

「わぁ~っ!! もう言わないで!!」


恥ずかしがる私を苛める事が、彼の楽しみだと以前聞いた事がある。

生粋のドSだと思い、勝ち目はないと踏んだのを覚えているから間違いない。


これ以上何か言っても、百倍返しされるだけだと思って口を噤む。

そんな私を見て満足そうに笑った彼は、長い足を組み直して仕事用の眼鏡をかけた。


「顔真っ赤」

「突然あんな事されたら、誰でもこうなりますよっ」

「何?  じゃぁキスするって宣告すればよかった?」

「そういう問題じゃないですっ!!」


拗ねた子供の様に憤慨する私を見て、微かに瞳を細めた彼。

朝日に照らされたその顔が、見惚れる程かっこいいから悔しい。

すると。


「キスしたい」


顔を真っ赤にする私に、更に追い打ちをかけるようにそう言った彼。

私だけに聞こえる甘いハスキーボイスが、胸を甘く疼かせる。

そんな顔でそんな事言われたら、抗えない事知っているくせに。


「――…意地悪」


意地悪だけど、どこまでも甘い彼の言葉に負けた。と確信する。

そして、周りに誰もいないのを確認して、そっと彼の唇に自分の唇を重ねた。
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