嘘つきな君
――その後。
7時間程のフライトをえてシンガポールに到着した。
仕事とはいえ、久しぶりの海外という事もあって、不謹慎だけど少しだけ旅行気分。
それに、何よりも彼との初めての泊りでの出張。
それが海外だっていうのが、さすが一流企業って感じだ。
欲を言えば、もっと可愛い服を持ってきたり、美容院とか行きたかったけど、贅沢は言えない。
仕事を頑張りつつも、楽しんじゃおう。
終始ニヤニヤしながら、彼の後ろをついて歩く。
だって、嬉しくて堪らない。
私達の事を誰もしらない土地。
一緒に手を繋いでも、肩を寄せ合っても、誰も咎める事のない世界。
籠の外の世界。
日本を代表する会社の次期社長という事もあって、今まで軽率な行動は控えていた。
次期社長ともあろう人が、秘書に手を出したなんて、そんなレッテル彼に貼りたくない。
おまけに、将来のお嫁さんが決まっている人だ。
そんな人にスキャンダルでもあれば、神谷も結婚相手の人も良く思わない。
彼の結婚は、会社全体の信用にも関わる事だ。
だから、慎重に行動しなければいけない。
それが悲しくもあるんだけれど、口に出す事はない。
だから、もちろん私達が付き合っている事は誰も知らない。
知ってるのは、仁美と先輩の2人くらい。
デートも未だにした事がない。
どこで誰が見ているか分からないから。
だけど、それでも不満はなかった。
毎日職場でだけど、必ず会えたから。