嘘つきな君
誰にも知られてはいけない。
誰にも疑われてはいけない。
だけど、今この場所には、私達の恋を咎める人はどこにもいない。
周りを気にせずに、手を繋いだり、寄り添って歩く事もできる。
普通の恋人同士として、いられる。
それが、嬉しくて嬉しくて堪らなかった。
「無事着いて良かったですね~」
ようやく空港の外に出て、辺りをキョロキョロしながら歩く。
突然の出張だったから、下調べが不十分でどことなく不安だ。
「えっと、宿泊するホテルのタクシーが迎えに来るんですよね」
「あぁ」
「それで、ホテルに行って……打ち合わせをして、パーティー……ですね」
「了解」
朝打合せした時に書き込んだスケジュール帳を開きながら、彼の後ろをついて歩く。
そんな中、迎えのタクシーがどこにいるか分からず電話をかけようと思ったが、どう聞けばいいか分からず焦る。
「えっと……これは英語で……なんて言うんだっけ」
慌てて携帯で英文を調べるが、頭に入ってこない。
すると。
「バーカ。お前は俺の後ろについてればいいんだよ」
ひょいっと突然携帯を奪われて、目を瞬く。
そして、取り上げた張本人が私を見下ろしてそう言うもんだから、悔しくって携帯を奪おうと躍起になる。
「返して下さいよっ!」
「バカか。こんなもの必要ねーだろ」
「バカって!! そういう常務こそ英語喋れるんですかっ!?」
「ある意味、日本語より得意だけどな」
そう言った彼の言葉を聞いて、はっと思い出す。
そういえば、アメリカに10年近くいたんだった。