嘘つきな君
「資料はこれだけですか」
「あぁ。何か変更があれば連絡が入るはずだ」
「分かりました」
「俺は隣の部屋で少し話している」
「はい。何かあったら呼んでください」
――…それでも、打合せの時間が近づくにつれて、頭の中を仕事モードに切り替える。
もちろん、さっきまで庭で寛いでいた彼も仕事モードに切り替わっていた。
部屋の中はスイートルームという事もあって、豪華絢爛。
寝室が3つ、キッチン・リビング・書斎・小さな会議室まである。
目を庭に移せば、真っ青なプールが見えた。
夢みたいだ、と思いながらも、オフになりかけた頭を仕事モードに戻す。
そして、沈みそうな程フカフカなソファに身を埋め、明日の会合の資料に目を通す。
隣の部屋では、常務が何やら英語で客人と話をしている。
今日はシンガポールにある神谷ホールディングスの新しい事業発足のお祝いみたいなもの。
だから、今夜は世界各国から関連企業のお偉い方を招いてのパーティー。
本当は社長が出席するはずだったけど、急遽常務が行く事になったとか。
世界各国からセレブ達が集まる、今夜のパーティー。
秘書に就いて驚いたのが、こういったパーティーで招待される人物の顔ぶれ。
日本では、テレビで見る一流企業の社長をはじめ。
経済界や芸能界からも、沢山の有名人が出席している。
今日は海外という事もあって、今まで以上に有名な人が出席しているだろう。
煌びやかで、どこか現実離れした世界。
そして、その会話の中心にいる彼を見る度に、誇らしい気持ちになる。
自分の彼氏は、こんなにも凄いんだって嬉しくなる。
そんな事を思いながら、ニヤニヤと気持ち悪い笑みを浮かべる。
すると。
「芹沢」
不意に名前を呼ばれて、慌ててニヤけていた顔を引き締める。
そして、慌ててソファから立ち上がって、隣の部屋へと急いだ。