嘘つきな君
その表情を見て、反射的に後ずさる。
それでも、彼は逃がさんとばかりに、追うように足を前に出した。
「俺が何の準備もなしに、そんな事言うと思ったか?」
落ちてくる言葉は、自信に溢れたもの。
そして、ちょうどその時、見計らったように部屋の扉がノックされた。
「失礼いたします」
「入れ」
常務がそう言ったと同時に、部屋の扉が静かに開いた。
そこに現れたのは、ニコニコ笑いながら、恭しく何かを持ったホテルマン。
だけど、それを見た瞬間、私の世界が止まる。
「ご依頼頂いたものを、お持ち致しました」
「ありがとう。そこに置いておいてくれ」
「かしこまりました」
丁寧に頭を下げたホテルマンが、『それ』を綺麗に指定された場所に置いた。
そして、最後に一度ニッコリと笑顔を浮べて、部屋を出て行った。
だけど、私の視線は『それ』に釘付けになる。