嘘つきな君
「常務……」

「ん?」

「ん……んっ」


引き寄せられた腕の中で、キスに溺れる。

絡み合う舌が水気を帯びた音を生んで、この部屋の空気を変える。

激しいキスの波にのまれて、足の力が入らなくて崩れ落ちそうになる。


「もっと、見せろ」

「やっ……」

「もっとだ」


甘い声が耳元に注がれる度に、私の理性が壊れていく。

必死に彼に縋りついて、彼の愛に溺れた――。









「――あの……このドレス。どうして?」


ひとしきり、キスをした後。

パーティー開始まで、部屋で待つ事にした私達。

未だに高鳴る心臓を押さえて、何度も自分のドレス姿を眺める。

そんな私を見て、ソファーに腰かけていた常務が、ふっと微かに笑った。


「初めから、今日のパーティーにはお前も出席させるつもりだった」

「え?」

「でも始めにそう言うと、お前絶対出ないとか言うだろ」

「そ、それは……」

「だから、当日まで秘密にしてた」


その言葉に、うっとなる。

確かに、初めからそう言われていたら、意地でも出ないとか言うだろうな、私。

こんな大きなパーティー見てみたい気持ちがあるけど、実際出るとなると尻込みする。

だって、一般市民の私には、ここでの常識とかマナーとか全く知らないし。

それで、常務に恥をかかせる事は絶対したくないし……。


今でも、若干パーティーに出る事に不安だけど。

私の為にドレスを用意してくれた彼の優しさを無駄にはしたくない。


「ビックリしました……」

「驚きすぎだろ」

「だって、ドレスなんて着れるとは思わなかったし。それに、よくサイズが分かりましたね」


まるで私の為に作られたと思ってしまうほど、自分にピッタリサイズのドレス。

たまたまなのかもしれないけど。

そんな事を思っていると、彼がふっと息の下で笑って口を開いた。


「お前の体のサイズくらい分かる」

「――…変態」

「相変わらずムードのねぇ言葉」


恥ずかしくて眉間に皺を寄せながらそう言った私に、クスクスと彼は笑った。

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