嘘つきな君











「凄いね。まさかハリウッド俳優に会えるなんて思ってもみなかった」


大きなバルコニーに体を預けて、ウエイターが持ってきたシャンパンで喉を潤す。

その隣には、ポケットに片手を入れて凛と立つ常務。

煌めくシャンデリアに照らされたその横顔は、相変わらず完璧だ。


「仁美に自慢しちゃおっと」


そう言った私を見て、ふっと息の下で笑った常務。

そして、大きな手をスッと伸ばして、私の頬を優しく撫でた。


「この世界にいると、自分が一体何者なのか分からなくなる事がある」

「え?」

「あまりにも現実離れしているから、まるで夢の中にいる様な感覚になる」

「常務、も?」


思わず問いかけた私に、彼はコクンと頷いた。

驚いた。

常務が、そんな事思うなんて。

こんな煌びやかな世界を知らなかった私はそう思って当たり前だけど、常務でさえそう思うんだ。

天下の神谷グループで育った、彼でさえも。

だけど、その言葉を聞いて嬉しくなる。

彼も私達と同じ場所で生きているんだと思えたから。

住む世界が違うわけじゃないと。


僅かに微笑んだ私を横目に、彼は綺麗なドレスやタキシードに身を包んだ人達が賑わう会場に目を移した。

その視線を追う様に、私も会場に目を移す。


「ここにいると、何が本当で何が嘘なのか分からなくなる」


何が本当で、何が嘘。

その言葉の意味を、なんとなくだけど理解する。


神谷グループ次期社長というポストに立つ彼。

その肩書きがあるだけで、人はみんな彼に媚びようとする。

嘘の笑顔を塗り固めて、いい人を演じようとする。


今まで彼の隣にいたから分かる。

本心を仮面の中に押し込めた人達を沢山見てきたから。

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