嘘つきな君
その声を聞いて、パッと視線をそちらに向ける。
すると、入国審査ゲートを出た場所に一人の男性が立っていた。
仕立ての良さそうなスーツに身を包んだ、私より少し年上に見える男性。
鷹のように鋭い瞳で、私達をじっと見つめていた。
そのどこか冷たさを孕んだ様な瞳に、思わず息を飲む。
それでも、直ぐにその男性は鋭かった雰囲気を弱めて、上品に微笑んだ。
「長旅、お疲れ様でございました、神谷様」
「――」
「お車をご用意してございます。どうぞ、こちらへ」
深々とお辞儀をして、空港の出口へと歩き出した男性。
何故か分からないけど、その姿を見て酷く不安になった。
堪らなくなって隣に立つ彼を見上げると、大丈夫だといった顔で微かに微笑んでくれた。
「行くぞ」
「……うん」
「車を手配する手間が省けた」
「そう……だね」
「そんな顔するな。大丈夫だ」
真っ直ぐに私を見つめる瞳を見て、何故か猛烈にその手を掴みたくなる。
どうしてか、彼がこのままどこかへ行ってしまうような気がして。
それでも、しっかりしなきゃと自分に言い聞かせて、ニッコリと笑顔を作る。
きっと、彼には作り笑いだとバレバレだろうけど。