嘘つきな君
誰一人口を開く事なく、空港の出口へと向かう私達。
一歩足を前に出す度に、心に不安が降り積っていく。
どうして、こんなに不安になるのか分からない。
それでも、私の中の直感が危険信号を出している。
行ってはダメだと、サイレンを鳴らしている。
姿勢正しく歩く男性の後ろ姿を、ただただ見つめる。
皺ひとつないスーツを着こなして、真っ直ぐに前を見据えている。
時折少しだけ振り返って、私達の事を確認しては、あの笑顔を浮かべた。
どこか、張り付けたような、あの笑顔を。
それでも、その身のこなしを見て分かる。
きっと、彼は誰かの秘書か何か。
それも、とても鍛錬された上等な――。
そこまで考えて、ぐっと拳を握る。
大丈夫。
そう、心の中で何度も唱える。
まるで、おまじないの様に何度も何度も。
――…そしてそのまま、重たい足を引きずる事数分。
出口の自動扉が開いた途端、目の前には黒塗りの立派な車が停まっていた。
そのあまりの存在感に、思わず足を止める。
すると。
「お待ちしておりました」
私達が外に出た瞬間、ゆっくとその黒塗りの車の扉が開いた。
そして、中から出てきたその人を見て、言葉を失った。
「お久しぶりですね。大輔さん」
現れたのは、まるで西洋人形の様に綺麗な、1人の女性だった。